OPS(光パケット交換)実現への架け橋となる4つの重要技術
前回の記事では、AIデータセンターの次世代ネットワーク技術として「OPS(Optical Packet Switching:光パケット交換)」の理論的な可能性と課題を解説しました。
OPSはシステム全体としては研究段階にありますが、それを構成する要素技術の多くは、現在の光伝送ネットワーク(OTN)や次世代データセンター向けにすでに実用化、あるいは開発が推し進められています。
本記事では、OPSの実現に向けた基盤となる重要な既存技術を4つの観点から整理します。
1. シリコンフォトニクス(Silicon Photonics)
OPSを実現するための重要な要素技術の一つとなるのが、光部品の極小化と集積化です。
従来は個別の部品(レーザー、変調器、受光器など)として組み立てられていた光デバイスを、半導体製造技術(CMOSプロセス)を用いてシリコン基板上に超高密度に集積します。InP(インジウムリン)などの他の材料系やハイブリッド実装も存在しますが、シリコンフォトニクスは有力な基盤技術として期待されています。
OPSスイッチは、パケット単位で光の経路を切り替えるため、多数の光スイッチング要素や波長制御素子を必要とします。シリコンフォトニクスによって、これらの複雑な光回路を一つの小さなチップ上に形成でき、量産性の観点で優位性が期待されています。
2. CPO(Co-Packaged Optics:光電融合パッケージング)
電気信号による伝送距離を極限まで短くし、省電力化と広帯域化を図るパッケージング技術です。
現在主流のプラガブル光トランシーバ(フロントパネルに挿すタイプ)を廃止し、スイッチIC(ASIC)と同じ基板上の極めて近接した距離に光トランシーバ(光エンジン)を実装します。
現在のCPOは光電変換(O-E-O変換)を伴うEPSの進化系であり、電気I/Oのボトルネック解消を主眼としていますが、「光回路と電子回路(制御ロジック)を物理的に極めて近接配置する」という製造・実装技術は、OPSにおいても有効な実装技術となります。ナノ秒単位で光スイッチを電気的に制御するOPSでは、制御回路と光スイッチ間の配線遅延がシステム全体の性能に直結するためです。
3. 高速光スイッチング素子
OCSで使われるMEMS(微小電気機械システム)のマイクロ秒(µs)からミリ秒(ms)オーダーの切り替え速度はパケット単位の切り替えには適していないため、システム全体としてナノ秒(ns)オーダーの応答を目指す設計が求められます。以下のデバイスは、通信の変調器や増幅器としてすでに実用化が進んでおり、それぞれ固有の特性を持ちます。
- SOA(半導体光増幅器: Semiconductor Optical Amplifier):
電流を注入することで光を増幅するデバイスで、電流のON/OFFを超高速に切り替えることで光ゲートスイッチとしての利用が検討・実証されています。小型で集積化しやすい反面、利得雑音(ASEノイズ)の蓄積やクロストークには留意が必要です。 - MZI(マッハ・ツェンダー干渉計: Mach-Zehnder Interferometer):
光を2つの経路に分け、片方の位相を電気的に変化させて再び合流させることで、干渉を利用して光の出力先を切り替えます。シリコンフォトニクス上への実装が進んでいますが、精緻な位相制御が求められます。 - LiNbO3(ニオブ酸リチウム)光変調器:
長距離光通信で標準的に使われる素材で、電圧による屈折率変化が極めて高速です。近年は薄膜化(Thin-Film LN)により小型化と低電圧駆動が実現していますが、シリコンに比べると集積性に課題が残ります。
4. 波長ルーティング技術(WDMとAWG)
光パケット交換における最大の課題である「実用的な光メモリ(バッファ)の不在」に伴うパケット衝突を回避するための補完技術です。これらはOTN(Optical Transport Network)の分野で確立された技術を応用しています。
- 高速波長可変半導体レーザ(Fast Tunable Laser):
出力する光の波長を電気的な制御で高速(数ナノ秒〜数十ナノ秒程度)に切り替えられるレーザーです。 - AWG(アレイ導波路回折格子: Arrayed Waveguide Grating):
入力された光の「波長(色)」に応じて、出力するポート(方向)を物理的に振り分ける受動光デバイスです。WDM(波長分割多重)の合分波器として広く普及しています。
ポートでのパケット衝突が発生しそうになった際、送信側の波長可変レーザでパケットの「波長」を高速に切り替え、AWGを通すことで「別の利用可能なポート(経路)」へ光パケットを迂回(デフレクションルーティング)させることができます。これにより、光メモリに依存せずパケット損失のリスクを低減することが研究されています。
まとめ
OPSは単一のブレイクスルーによって突然実現するものではありません。
現在、大容量光伝送を支えているOTNの波長制御技術と、AIデータセンターの省電力化を牽引する実装技術(CPO)、そして高速光デバイスが高度に組み合わされることで、次世代の光パケット交換技術の実用化へとつながっていきます。

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