【IP-Optical統合とは】Cisco・Juniper・Nokiaの戦略とAPNの関係を整理する
AIデータセンターやクラウド基盤の巨大化により、ネットワークには「超大容量」「低遅延」「省電力」がこれまで以上に求められるようになっています。
こうした背景の中で注目されているのが、IPルーティングと光伝送を一体化して最適化する「IP-Optical統合」です。
従来、IPネットワークとDWDM(高密度波長分割多重)/OTNネットワークは別々の装置・別々の運用チームで管理されることが一般的でした。しかし、400ZR/ZR+などのコヒーレントプラガブル光モジュールの登場によって、ルーター自身が直接DWDM網へ接続できるようになり、IP層と光層の境界が急速に曖昧になりつつあります。
本記事では、Cisco・Juniper・Nokiaなど主要ベンダーのIP-Optical戦略を整理しながら、NTTが提唱するIOWN APN(All-Photonics Network)との関係についても技術的観点から解説します。
1. IP-Optical統合とは何か?
IP-Optical統合とは、IPルーティングと光伝送ネットワークを個別最適するのではなく、システム全体として協調・統合制御するアーキテクチャを指します。
従来のネットワークでは、以下のコンポーネントが階層的に完全に分離されていました。
- IPルーター
- トランスポンダ(光送受信機)
- OTNスイッチ
- ROADM(再構成可能な光分岐挿入装置)
しかし近年は、以下の技術的進展により、IPルーターから直接DWDM網へ接続する構成が現実的になっています。 - コヒーレントDSP(デジタル信号処理)の小型化・省電力化
- 400ZR/ZR+などプラガブルモジュールの標準化
- Open Line System(OLS)やOpen ROADMの普及
- SDN(Software Defined Networking)による統合制御
つまり、「IP機器がそのまま光伝送装置の役割の一部を担う」方向へシフトし始めているのです。
2. Ciscoの取り組み:Routed Optical Networking(RON)
Ciscoはこの分野を「Routed Optical Networking(RON)」と名付け、自社のアーキテクチャ戦略の中核に据えて強力に推進しています。RONの基本思想は、「可能な限りIPルーター側へ機能を集約する」ことにあります。
【コヒーレントプラガブルの活用】
Cisco 8000シリーズなどのルーターでは、400ZRやOpenZR+モジュール(自社買収したAcaciaのDSP技術などを活用)を利用し、ルーターから直接DWDM網へ接続します。これにより、以下のメリットを狙います。
- 専用トランスポンダの削減
- 消費電力・ラックスペース削減の可能性
- 運用の一元化・簡素化
【IP over DWDMアーキテクチャ】
RONの中心にあるのは「IP over DWDM」の思想です。従来必要だった「Router → Transponder → ROADM」という構成を、「Router → ROADM」へとシンプル化する方向を目指しています。
ただし、超長距離伝送や高度な波長制御、多段ROADM、OTNレベルの保護が必要なケースでは、依然として専用の光伝送装置が重要です。そのため、完全な置換というよりも「ルーターでカバーできる適用領域の大幅な拡大」に近いアプローチと言えます。
3. Juniperの取り組み:CORAとAI DCネットワーク
Juniperは、AIデータセンター向けのネットワーク基盤を強く意識した戦略を展開しています。近年は、買収したApstraによる「Intent-Based Networking」や、Mist AIなどを用いた運用自動化を含めた全体最適を重視しています。
【CORA(Converged Optical Routing Architecture)】
Juniperは、IPと光伝送を統合的に扱うアーキテクチャとしてCORAを提唱しています。ルーティング、光レイヤ、自動化、テレメトリ、AI運用を包括的に扱う点が特徴です。
特にAIデータセンターにおいては、以下の要素への最適化が重視されています。
- East-Westトラフィック(サーバー間通信)の増大
- GPUクラスタ間の高速通信
- RoCEv2のロスレス転送
- エレファントフロー(巨大なデータ転送)の効率的な処理
【Juniperと400ZR/ZR+】
JuniperもPTXシリーズやACXシリーズなどで400ZR/ZR+への対応を強力に進めています。ただし、CiscoほどIPレイヤへの機能集約を強く志向するアプローチではなく、「IP層と光層(OLS)を高度に協調制御する」というスタンスが比較的強い傾向にあります。
4. Nokiaの取り組み:Optical Fabric
Nokiaは長年、光伝送分野で非常に強い実績(旧Alcatel-Lucentの系譜)を持っています。自社開発のPSE(Photonic Service Engine)DSPや1830 PSSシリーズ、FlexGrid、CDC-ROADMなどは、大規模キャリア網に多数導入されています。
【Optical Fabricの思想】
Nokiaは「Optical Fabric」という概念を打ち出しています。これは単なる伝送装置の集合体ではなく、IP、光、DCI(データセンター間接続)、AIクラスタ接続を「統合的な光基盤」として扱う考え方です。
AIトラフィックの処理においては、超広帯域・超低遅延・高電力効率が極めて重要な要求条件となります。そのため、Nokiaは強力なルーター製品(FPシリコン)を持ちつつも、光レイヤそのものを次世代のネットワーク基盤として再設計・高度化する方向性を強く持っています。
5. IOWN APN(All-Photonics Network)との関係
ここで重要になるのが、NTTなどが推進するIOWN構想のコアとなるAPN(All-Photonics Network)との関係です。APNは、「可能な限り光のままエンドツーエンドで接続する」という思想を持っており、IP-Optical統合のトレンドと強い親和性を持っています。
【共通する方向性】
- 光バイパスと省電力化: 両者とも、電力消費の激しいO-E-O(光-電気-光)変換を極力減らし、光のまま透過(バイパス)させることで大幅な省電力化を目指しています。
- コヒーレント技術: 400ZR/ZR+や進化するコヒーレントDSPは、APN、IP-Optical統合、DCIのすべてにおいて重要な基盤技術です。
- SDN制御: APNにおいても、光パスの動的制御、トポロジ最適化、運用の自動化は重要な要素であり、IP-Optical統合におけるSDNの方向性と強く一致します。
6. APNとIP-Optical統合の違い
一方で、両者にはターゲットとするスコープや時間軸に違いがあります。
- IP-Optical統合(現実的・短期〜中期アプローチ):
現在のIP/Ethernetアーキテクチャを前提とし、ルーターと光伝送の機能を統合することで、インフラの運用効率化や消費電力削減を進める現実的な解です。 - APN(革新的・中長期アプローチ):
より長期的な視点に立ち、ネットワークだけでなく端末(サーバーやチップ)に至るまでの「エンドツーエンドの光化」を目指します。単なる伝送最適化にとどまらず、超低遅延・高同期性を活かした「より包括的なコンピューティング基盤構想」に近い思想を含んでいます。またAPNでは、単なる光化だけでなく、高同期性・低ジッタ・高精度時刻同期なども重要な設計要素となっています。
7. AIデータセンター時代における意義
AIインフラの世界では現在、以下の課題が急速に顕在化しています。
- 大規模言語モデル(LLM)等によるGPUクラスタの巨大化
- All-Reduce(勾配同期)トラフィックの増大
- East-West通信の爆発的な増加
- データセンターの電力・冷却制約
これらを解決するためには、電気的なスイッチング処理を極力減らし、光レイヤをより積極的に活用する方向性が強まっています。
その現実解として、本記事で触れたIP over DWDMをはじめ、OCS(光回線スイッチ)、CPO(Co-Packaged Optics)、Coherent Pluggable、Open Line Systemなどの光技術がデータセンター内外で急速に発展・実装されつつあります。
まとめ
IP-Optical統合は、「IPルーティング」と「光伝送」を別世界として扱う従来構造から、「全体最適された統合ネットワーク」へ移行する大きな潮流と言えます。
- Cisco: RONによるルーターへの機能統合を重視
- Juniper: CORAによるAI運用とレイヤ間の協調制御を重視
- Nokia: 大規模光基盤としてのOptical Fabricを推進
各社のアプローチには自社の強みを生かした違いがありますが、いずれも「O-E-O変換の削減」「光バイパス」「省電力化」「AIトラフィック最適化」というゴールは共通しています。
そしてその延長線上には、IOWN APNのような「より深いレベルでの光化アーキテクチャ」が存在しています。AI時代のネットワーク構築において、「光とIPをどのレイヤで、どこまで融合させるか」は、今後重要な設計テーマの一つであり続けるでしょう。

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