【400ZR/ZR+とは?】コヒーレントプラガブルがIP-Optical統合を加速させる理由

【400ZR/ZR+とは?】コヒーレントプラガブルがIP-Optical統合を加速させる理由

AIデータセンターのトラフィック増加やクラウドインフラの拡張に伴い、ネットワークの帯域需要は継続的に拡大しています。この課題に対する技術的アプローチとして、ネットワーク業界で現在特に注目されているのが「400ZR」や「OpenZR+」に代表されるコヒーレントプラガブル光モジュールです。

本記事では、IP-Optical統合(ルーターと光伝送の融合)を現実のものにした400ZR / OpenZR+の技術的な背景について、基礎的な仕組みから適用領域、各ベンダーのスタンスまでを整理して解説します。

1. IM-DDとコヒーレント通信の違い

光通信の方式は、大きく「IM-DD」と「コヒーレント」の2つに分けられます。

  • IM-DD(強度変調・直接検波):
    光の明滅(オン・オフ)または強弱でデジタル信号を表現する、最もシンプルで伝統的な方式です。モジュールが安価で低消費電力なため、データセンター内(数m〜10km程度)の短距離通信で広く使われています。しかし、長距離化や大容量化の領域では、分散耐性や受信感度の観点から、コヒーレント通信が有利となるケースが増えています。
  • コヒーレント通信:
    光を波として捉え、光の「位相(波のタイミング)」「振幅」「偏波(波の揺れる方向)」を緻密に制御することで、一度に大量のデータを長距離伝送する技術です。現在では長距離・大容量通信(DWDM網)の標準技術となっています。

2. DSP(デジタル信号処理)とは何か

コヒーレント通信の中核コンポーネントとなるのがDSP(Digital Signal Processor)です。

長距離伝送では、光信号は波長分散や非線形光学効果などの影響を受けます。DSPは、波長分散や偏波変動などによる信号劣化を補償するだけでなく、位相復元、偏波分離、誤り訂正(FEC)などをリアルタイムで実施し、コヒーレント通信を成立させる中核技術です。

この高度な計算処理には膨大な電力が必要であり発熱も大きくなるため、DSPをいかに小型化・低消費電力化するかが長年の課題でした。

3. プラガブルモジュールの進化と「ルーター直収」の実現

前述のDSPにおける消費電力とサイズの問題を克服し、「ルーター直収(IP over DWDM)」を一気に普及させたのが、モジュールの規格(フォームファクタ)の進化です。

3.1 CFP2-ACOからCFP2-DCOへの進化

コヒーレント通信をプラガブルモジュール化する取り組みは、CFP2(100G Form-factor Pluggable 2)という規格から本格化しました。

当初のCFP2にはACO(Analog Coherent Optics)という形態が存在しました。これは、モジュール内に光部品のみを格納し、電力を消費するDSPをルーターや伝送装置の基板(ラインカード)側に配置する方式です。しかし、専用のDSP搭載ラインカードを開発する必要があり、ルーターの汎用性を損ねる課題がありました。

その後、DSPをモジュール内に内蔵したCFP2-DCO(Digital Coherent Optics)が登場し、「モジュールを挿すだけでコヒーレント通信が可能」な基盤が完成しました。

3.2 CFP2-DCOが抱えていた3つの課題

CFP2-DCOはルーターへ広く普及させるには以下の物理的・設計的な制約がありました。

  1. 物理サイズとポート密度(フェイスプレート密度)の限界:
    CFP2モジュールは横幅が約41.5mmと大きく、1RU(ラックユニット)のルーター前面に配置できるポート数が限られていました。
  2. クライアントポートとの規格不一致:
    データセンター内の短距離接続では、すでに小型のQSFP28(100G)やQSFP-DD(400G)が標準化されていました。CFP2をルーターに挿すためには専用スロットが必要であり、ポートの柔軟性が損なわれていました。
  3. 消費電力と熱問題:
    当時のDSPプロセス(16nmや14nm)では、モジュール全体の消費電力が20W〜30Wを超えることもあり、ルーター側の電源や冷却設計に大きな負担をかけていました。

3.3 QSFP-DD / OSFP による技術的進展

これらの課題を解決したのが、400ZRやOpenZR+モジュールで採用されたQSFP-DDおよびOSFPというフォームファクタです。

この進展の最大の要因は、DSPチップのプロセスルールが7nmに微細化されたことです。DSPの消費電力が低下し、モジュール全体の消費電力を15W〜20W程度に抑えることが可能になりました。この結果、以下の設計が可能になりました。

  • ポート共通化(Universal Port)の実現:
    QSFP-DDは、データセンター内で使う短距離用モジュール(400G-DR4など)と同じQSFP-DDフォームファクタを採用しています。対応するQSFP-DDポートに400ZR / OpenZR+を挿入することで、ルーターから直接DWDM網へ接続できる構成が可能になりました。
  • ルーターの高密度ポート実装の維持:
    CFP2の約半分(横幅約18.3mm)という小型化により、1RUあたり32ポート級の400G実装も現実的になりました。ルーターの高密度ポート実装を維持しながら、DWDM直収を可能にしました。

3.4 CFP2 と QSFP-DD の比較まとめ

比較項目CFP2-DCOQSFP-DD / OSFP (400ZR / OpenZR+)
主なDSPプロセス16nm / 14nm7nm(今後は5nm/3nmへ)
物理サイズ(横幅)約41.5mm約18.3mm(QSFP-DDの場合)
1RUあたりの実装密度数ポート〜十数ポート程度32ポート級の400G実装も現実的
モジュール消費電力20W〜30W以上15W〜20W程度
ルーターポートとの親和性専用スロットや専用ラインカードが必要クライアント用光モジュール(短距離)と共通スロット
現在の主な用途高出力・長距離向けの専用伝送装置DCI、メトロ網、ルーター直収(IP over DWDM)

4. 400ZR と OpenZR+ の違い

QSFP-DDサイズのコヒーレントモジュールには、主に2つの規格が存在します。用途や必要な機能によって使い分けられます。

400ZR

  • 策定団体: OIF (Optical Internetworking Forum)
  • 主な用途: DCI(データセンター間接続)、エッジネットワーク
  • 特徴: 400Gbps固定。主に80km級のDCI用途をターゲットとして設計されています。実際の到達距離は光損失や増幅構成に依存します。シンプルで相互接続性を重視したCFEC(Concatenated FEC)を採用しており、Point-to-Pointの接続に最適化されています。

OpenZR+

  • 策定団体: OpenZR+ MSA
  • 主な用途: メトロネットワーク、リージョナルネットワーク
  • 特徴: 100G / 200G / 300G / 400Gとマルチレートに対応します。より強力なエラー訂正技術であるoFEC(Open Forward Error Correction)を採用しており、数百km級のメトロ〜リージョナル用途を想定しています。ただし、実際の到達距離は変調方式や光設計に依存します。多段のROADM(光分岐挿入装置)を経由する複雑なネットワーク構成にも対応可能です。

5. Open ROADM と OLS(Open Line System)

OpenZR+のような標準化されたモジュールを最大限に活かすためには、光伝送路のオープン化が必要です。そこで重要になるのがOLS(Open Line System)というアーキテクチャです。

従来のDWDMネットワークは、トランスポンダから光増幅器、ROADMまでを単一ベンダーで揃えるクローズドな構成が一般的でした。OLSは、トランスポンダ(端末側)とラインシステム(光ファイバー、増幅器、ROADMなど)を分離し、オープンなインターフェースで接続可能にします。

Open ROADMなどの標準化により、マルチベンダー相互接続性の向上が進んでいます。ただし、実運用では事前の相互接続検証が重要となります。

6. 適用領域(Metro / DCI / Long Haul)の使い分け

すべての光伝送がルーター直収に置き換わるわけではなく、用途と要求仕様に応じた使い分けが不可欠です。

  1. DCI(エッジ・都市内 / 80km級を中心とする短〜中距離):
    400ZRが主な適用領域となります。ルーター直収によるコスト削減と省電力化のメリットを最も得やすい環境です。
  2. Metro / Regional(都市間・広域 / 数百km):
    OpenZR+が適用されます。多段ROADMを通過できるため、キャリアのメトロ網のIP-Optical統合において重要な役割を果たします。
  3. Long Haul / Subsea(長距離・海底 / 数千km):
    超長距離・海底系では、依然として専用トランスポンダ(Embedded Coherent)が主流です。特に1波長あたり800G〜1.2T級の限界性能を引き出す領域では、専用DSPや高度な光設計が求められます。一方で、一部では長距離向けプラガブル技術の拡張も進められています。

7. Cisco・Juniper・Nokia のアプローチの違い

400ZR / OpenZR+の普及を背景に、各ベンダーは独自のIP-Optical統合戦略を展開しています。

  • Cisco:
    DSPベンダーであるAcaciaを買収し、自社でコヒーレント技術を保有しています。ルーターへの機能集約を強く志向する「Routed Optical Networking(RON)」戦略の中核として、400ZR / OpenZR+を非常に積極的に推進しています。
  • Juniper:
    IPレイヤとOLSを高度に協調制御する「CORA」アーキテクチャを推進しています。ルーターへの完全統合というよりは、自動化やAI運用を組み合わせた柔軟で相互接続性の高いエコシステム構築に重点を置いています。
  • Nokia:
    キャリアグレードの大規模光網で強い基盤を持ちます。強力なルーター製品を展開しつつも、自社開発の高性能DSP(PSEシリーズ)を軸にした光伝送網そのものを次世代基盤と捉える「Optical Fabric」の思想を持っています。

まとめ

400ZRおよびOpenZR+の登場は、単なるモジュールの小型化ではありません。DSPの進化がルーターのポート密度問題と電力制約を大きく緩和したことで、長らく分離されていたIPネットワークとDWDMネットワークの統合が現実的かつ経済的な選択肢となりました。

AIトラフィックの増大によりデータセンター間の通信要件が厳しさを増す中、今後は800ZRの実用化に加え、さらに高速な1.6T級コヒーレントプラガブルの研究・開発も進むと考えられています。

「どこまでをルーターで処理し、どこからを専用の光伝送路に任せるか」という適材適所のネットワーク設計が、今後のインフラ基盤構築において重要なテーマとなります。

コメント

タイトルとURLをコピーしました